メラニンのできる仕組み

メラニン色素と皮膚の色

人間の皮膚の色は人種の違いや住む所によって大きく異なりますが、同じ人種でも個人差があります。
さらに個人でも体の部位によって皮膚の色は違います。
皮膚の色を決定するには主に3つの要素があります。

  1. 皮膚中の色素の量
    俗に言う肌が白い、黒いを決定する要素がメラニン色素です。
    メラニン色素の量が多いほど肌は黒くなります。
  2. 皮膚の血液の量
    顔色が良い、悪いの判断基準になるもので、皮膚中の毛細血管の血流量に左右されます。
    循環器・消化器疾患で顔色がさえなくなることもあります。
    皮膚が健康状態を映す鏡といわれるゆえんです。
  3. 皮膚に運ばれてくる物質
    良く知られているのは「カロチン」です。
    みかんなどの柑橘類を多く摂ると手のひらなどが黄色くなるのは、カロチンの作用によるものです。
    カロチンが汗とともに排出されて皮膚の脂肪を着色するためです。
    最近ではみかんなどではなく、野菜やニンジンジュースで起きることが多いようです。
    また、黄疸などによって皮膚や眼球が黄色くなるのはビルビリンが沈着した結果のこともあります。
    ビルビリンは黄色のタンパク質で、これが腸管に排出されずに、血液中に増えると体が黄色くなります。

メラニン色素の生成

メラニン色素は、皮膚では表皮の最も下にある基底層で、毛髪では毛母で生成されます。
生成するのはメラニン形成細胞の「メラノサイ」です。
メラニン色素を生成するので、単に色素細胞と呼ばれることもあります。
メラノサイトはメラニン色素を生成しますが、貯蔵する細胞ではありません。
メラニン色素はタンパク質の一種で、微細な顆粒状になっていますが、生成過程はとても複雑です。
メラニン色素はアミノ酸の一種のチロジンという物質が次々と変化して、最後には酸化・重合し、黒褐色のメラニン色素となります。

メラニン色素の顆粒状の粒子はメラニン顆粒と呼ばれます。
メラニン顆粒の直径は約0.4~1.0マイクロメートルという微粒子です。
チロジンという出発物質がチロシナーゼという酵素の力を借りて反応を繰り返すことでメラニン色素がつくられます。
その製造工場がメラノサイトです。

メラニンの代謝

毎日つくられるメラニン顆粒は、メラノソーム(メラニン小体)という小胞でつくられます。
ある一定の量に達すると、メラノソームは樹枝状に伸びているメラノサイトの突起を通して、周辺の表皮細胞に送り込まれます。
表皮細胞はメラノソームを内部に含有したまま角化に伴って皮膚の表面に向かって押し上げられて、最終的には角片とともに垢となって皮膚表面から剥がれ落ちていきます。
この間にもメラニン色素は基底層から次々生成されます。
正常な皮膚の場合、この排泄と生成のバランスが保たれています。
メラニン色素の排泄・生成のサイクルをメラニンの代謝といいます。

メラニンの代謝には、表皮細胞とともに表層に押し上げられるものの他に、真皮層に落ちていくものもあります。
表皮細胞に取り入れられなかったメラノソームは真皮内に落下してマクロファージに貪食されます。
その後、血管やリンパ球を経由して体外に排泄されます。
ところが、皮膚に何らかの異常があると、メラニン代謝が上手くいかずに、真皮に落下したメラノソームがそのまま留まることもあります。

メラノソームはそのままの形でケラチノサイトの色調の元になりますが、最後にはリソソームによって破壊されてしまいます。
表層にあるケラチノサイトほど薄い色調をしています。
それは、表層へいくほどメラノソームが減少するからです。
白色人種ではメラノソームの受け渡しは基底層と有棘層で行われて、それ以上の上の層ではメラニン色素を欠きます。
これに対して、黒色人種ではメラノソームが大きく、顆粒層にまでメラノソームが運ばれるので黒色を呈します。

メラニンの代謝

  1. 紫外線を受けるとメラノサイトが活動を起こします。
  2. メラノサイトは通常淡い色をしていますが、紫外線を受けるとメラニン色素を産生し、自らも褐色に変化します。
  3. メラニン色素は酸化酵素チロシナーゼを含み、チロシナーゼはメラノサイト内でチロジンを原料として作られます。
  4. メラニン色素はメラノサイトがのばした樹枝状突起を通じて基底細胞内に送り込まれます。
  5. この樹枝突起が基底細胞に突起物を突入させ、その突起部分が取り込まれ、破壊され、消化されてメラニン色素が拡散していきます。
  6. 基底細胞は有棘細胞、顆粒細胞と成熟し、上方へ移動し、メラニンの拡散を促します。紫外線を受けると、肌が黒くなるのはこのためです。
  7. 表皮全体に拡散した後、角化によって排泄されたり、マクロファージ(白血球の仲間)の食作用によって消失してしまいます。このメカニズムが皮膚の新陳代謝や乱れ、低下により局部的に色素が沈着したままとなりシミとなってしまうのです。

色素沈着の手入れ:シミ

メラニン代謝が崩れると、その結果、メラニン色素が過剰に表皮内に蓄積されます。
こうして出来るのがシミやソバカスで、総称して色素沈着といいます。
シミは肝臓表面の模様に似ていることから肝斑(かんぱん)ともいわれます。
肝臓疾患によりシミができるという節もありますが、むしろホルモン異常が影響していることが多く、紫外線で悪化します。

年齢的に20~60歳までと幅広く発生し、特に30代後半から多くなります(平均的には42歳前後)。

シミが出来る範囲は限られ、体の左右対称にできることも珍しくありません。
出来る場所は顔が多く、頬、額、唇周囲などです。
色は淡褐色から濃褐色まで、さまざまであり、形は不定形、その境界ははっきりしています。
痛みやかゆみなどの自覚症状がないので、シミができていることに気付かないことがしばしばあります。

色素沈着の手入れ:ソバカス

ソバカスは遺伝的な素因として発生してくるもので、生まれつきあるものですから、後で出来るシミとはまったく異なる色素沈着です。

年齢的には5~6歳の幼児期の早いときからできるのが通常です。

顔の頬、肩、腕、背中にでることが多い色素斑です。
おおよそ米粒大までの不規則な形で、色は淡褐色です。
成長するとともに増える傾向があり、内分泌活動が盛んになる思春期にピークとなります。
個人差が大きいので一概には言えませんが、その後は徐々に色も薄くなり、形も不明瞭になっていくこともあります。
ソバカスは紫外線の影響で色が濃くなったりするので、春から夏は目立ち、秋から冬は薄くなります。

色素沈着の手入れ:炎症

紫外線や加齢以外でも色素沈着はできることがあります。
化粧品、家庭用品、植物などで皮膚炎を起こし、その部分が色素沈着を起こしてしまうケースです。

化粧品に含まれる香料やタール色素をアレルゲンとするアレルギー性接触皮膚炎を起こし、カブレやかゆみの症状が治まった後、そこに色素沈着を起こしてしまうこともあります。

機械的な刺激が長期間皮膚に加えられると色素沈着を起こすこともあります。
フェイスブラシやナイロン製のタオルなどで、強くこすりすぎると、色素沈着の原因となる摩擦黒皮症を起こすことがあります。
この他、マッサージ器、合成繊維の下着、ネル生地のパジャマなどで、強い刺激を与えられると、知らず知らずに色素沈着を起こしている場合もあります。

植物によるものは、ウルシやギンナンなどにかぶれた後、色素沈着が起こる場合があります。

シミとホルモン

月経や妊娠に深く関わっている女性ホルモンもシミのできる一因となります。
女性ホルモンの一種の「黄体ホルモン」の分泌が活発になることや、「卵胞ホルモン」とのバランスが崩れることで、一時的にメラノサイトが刺激されてメラニン色素の生成が高まり、シミができる場合があるのです。

黄体ホルモン
卵巣に作用して成熟卵胞を排卵させ、黄体の形成とそこからの「プロゲステロン」の分泌を促します。
プロゲステロンは、ステロイドホルモンの一つで、子宮粘膜を受精卵の着床に供えた状態に変化させて、着床後は妊娠の維持に働きます。
卵胞ホルモン
成熟女性では卵巣での卵胞の発育を促進し、卵胞からのエストロゲンはステロイドホルモンの1つで、その代表はエストラジオールです。
妊娠中にできたシミは、分娩・授乳といった過程で消えていくことが多く、閉経時のホルモンのアンバランスも卵巣機能の停止とともにおさまるので、消えていくことがあります。
しかし、皮膚の新陳代謝機能そのものが加齢により低下していますから、そのまま残ってしまうケースもあります。
シミは皮膚の角化にも密接に関わっています。

メラノサイト刺激ホルモン

シミの原因として、その他に脳下垂体から分泌される「メラノサイト刺激ホルモン」の量が増え、直接メラノサイトに働きかけてメラニン色素の生成を高めることでしみになる場合があります。
が、メラノサイト刺激ホルモンは胎児期や乳幼児、妊娠中など、ある種、体が病的状態のみに分泌されます。

ストレスもシミを促進させる要因をもっています。
脳下垂体から分泌されるメラニン細胞刺激ホルモンがメラニン色素を増加させます。
このホルモンは精神的なストレスに左右されます。
また色素細胞そのものも神経系と密接な関係にあり、精神面で不安定な状態になるとシミができやすいと言われています。

色素沈着の深さ

色調でわかる色素沈着の深さ

シミやソバカスの色調は淡い褐色から黒褐色、あるいは青黒色、紫褐色と様々です。
これはメラニン色素の量や存在する位置(皮膚内での深い浅い)によって異なるからです。
一般に皮膚表面に近くになるほど褐色が強まり、その量や密度が高くなると黒褐色や黒色に近くなる傾向があります。
淡褐色のシミ・ソバカスの場合は比較的に浅いところにあり、量も少ないということになります。

メラニン色素は基底層に存在していますが、真皮層に入り込むこともあり、これが紫色、青みがかったシミ・ソバカスです。
青みを帯びて見えるのは、光線の透過度の違いに起因します。
乳児のおしりに見られる蒙古斑は真皮のメラニン色素が集中しているためです。
成長とともに消失していきます。

褐色調のシミ・ソバカスは表皮にあるメラニン色素が原因ですから、ケラチニゼーションにより、やがて色を淡くしたり、消しさることが可能です。
真皮内のメラニン色素が原因の場合は、淡くしたりするのは困難です。
真皮では新陳代謝による排出も行われずに、そのまま残ってしまいます。

色素沈着の予防

シミ・ソバカスを取る即効性のある特効薬はまだありませんが、増えたり、色を濃くしないためには、日頃のスキンケアで効果を期待できます。

  1. 紫外線対策を万全に
    メラニン生成を盛んにする紫外線をなるべく浴びないようにすることです。
    戸外や外出、スポーツをするとき、それに洗濯物や買い物などでも、紫外線防止効果がある化粧品を必ず使用することで、予防ができます。
  2. 紫外線の多い時間帯の外出をひかえる
    皮膚の老化に影響する紫外線量は、太陽が真南にくる時間の前後2時間に多いので、午前10時~午後2時の時間帯の散歩や外出を避けることでも大きな違いがあります。
  3. 日傘・帽子・長袖シャツなどを用いる
    外出時に日傘やツバのついた帽子、長袖シャツで、物理的に日光をさけることも効果的です。
  4. 皮膚の新陳代謝を高める
    たくさんのメラニン色素を含む角質細胞が長く表皮に留まっていると、色素沈着の一因になります。
    正常に戻すには、規則正しい生活、良質なタンパク質を摂ることを欠かせません。
    また、蒸しタオルパックやお風呂でのマッサージでの血行促進も新陳代謝を高めるのに効果的です。
  5. メラニン色素の還元をはかる
    メラニン色素はもともとは無色透明のチロジンが酸化を繰り返して褐色になったものです。
    その酸化を抑えることでシミ・ソバカスを予防できます。
    メラニン色素の還元にはビタミンC(アスコルビン酸)が有効です。
    ビタミンCには酸化を抑制するとともに、できたメラニン色素を薄くする還元作用があります。
    ビタミンCはレモンやオレンジなどの果実や野菜など天然植物中に広く存在しており、抗壊血作用をもつことが知られています。

ビタミンCの働き
①コラーゲン生成 ②タンパク質代謝 ③糖代謝 ④内分泌機能 ⑤血管壁を強くし血小板の生成を促し、赤血球を増加 ⑥皮膚色素の異常沈着の抑制・除去作用
ビタミンCが欠乏すると
①壊血症 ②歯槽膿漏 ③貧血 ④食欲不振 ⑤抵抗力の減退 ⑤メラニン色素の異常沈着

メラニンの還元

酸化酵素チロシナーゼの働きを弱める

メラニン色素の生成のための化学反応に大きな役割を果たしている酵素チロシナーゼの働きを抑制することで、メラニン色素はの酸化(着色)は抑制されます。
チロシナーゼを抑制する物質としては、コウジ菌が作り出すコウジ酸やコケモモや洋ナシに含まれるアルブチンという物質があります。
これらの物質はメラニン色素生成の過程で重要な役割を果たす酵素チロシナーゼの働きを抑制して、チロジンがメラニンへと合成されにくくします。
このような薬剤でメラニンの過剰な酸化をストップすれば、沈着しているメラニンは新陳代謝によって垢となって剥がれ落ちますから、シミは薄くなりやがて消えることになります。
とにかくシミの回復には気長な手入れが大切です。

各成分の美白効果

各成分の美白作用

成分名 美白作用
ハイドロキノン 最も強い美白作用(アルブチンの100倍)がある。もともとは写真の現像に使用され、化粧品には配合しない成分でしたが、薬事改正により低濃度で配合することができるようになった成分です。
コウジ酸 酒造り職人の手がコウジにより白くなったことから発見された美白剤。現在は化粧品への配合は発がん性の可能性のため禁止されています。
エラグ酸 マメ科の植物「タラ」の実のサヤから抽出されたもので、チロシナーゼの過剰な働きを抑え、メラニン色素を作りにくくします。
甘草エキス 甘草または同属植物の根および根茎から得られる。含まれるクラブリジンがコウジ酸に匹敵する美白効果がある。
ビタミンC ビタミンCは皮膚からの吸収が悪く、また不安定な物質でしたが、近年安定して皮膚に塗るだけで吸収されるタイプが開発されました。クリニックやエステで高濃度に調合されたローションが使用されています。
アルブチン コケモモ、西洋ナシの葉や皮に含まれている。チロシナーゼの働きを抑制する。
ルシノール
(ポーラ化粧品)
シベリアのもみの木に含まれるポーラ化粧品が開発した美白成分。アルブチンよりもチロシナーゼの働きを抑制する。
プラセンタエキス 牛などの胎盤エキス。ドーパクロムの生成を阻害します。また新陳代謝を促進する効果もありますから、できたメラニンの排出なども早めると考えられ、おだやかな美白効果があります。しかし、BSE(狂牛病)の発生により牛のプラセンタエキスは化粧品への配合を禁止されてました。
カミツレエキス ヨーロッパのキク科の植物カミツレ草の抽出エキス。メラノサイトの活性化をおだやかに阻害します。

治療

紫外線や加齢以外でも色素沈着はできることがあります。
化粧品、家庭用品、植物などで皮膚炎を起こし、その部分が色素沈着を起こしてしまうケースです。

外用薬

皮膚科医は外用薬と内服薬でシミ・ソバカスの処方をします。
外用薬に使用されるのは皮膚から吸収される油溶性ビタミンCです。
効果は非常におだやかで、毎日2~3回塗リ続けることにより3ヶ月ほど経つとシミが徐々に薄くなってきます。
しかし、ビタミンCの塗布をきちんと毎日続けていても、海水浴へ行ったり、戸外でスポーツして紫外線を多量に浴びると元に戻ってしまいます。
ビタミンCには生成されたメラニン色素の生成を阻害する作用や還元する作用はありますが、紫外線防止効果はありません。
日焼け防止用化粧品でしっかり紫外線対策を行わなければなりません。

内服薬

ビタミンCは内服薬でも補給します。
量的には1日あたり1g以上です。
レモンで換算すると50個を超えるビタミンCの量です。
熱に弱く、水溶性で壊れやすいビタミンCを効果的に摂取するには、内服薬は優れています。
内服薬による効果も即効性のものではありません。
効果が出てくるのは外用薬と同様で、3ヶ月ほど経過してからです。
また、ビタミンCは体内に蓄積されることはなく、一度に大量に内服しても余剰分は体外に排出されてしまうので一定量を長期にわたり服用していかなければなりません。
内服薬としてビタミンEや還元グルタチオン剤なども利用されています。
また、医師によってはビタミン注射を使うこともあります。

こうした薬を使用すると同時に、日常生活での注意を守ることが大切です。
紫外線を避けることが第一ですが、精神的にも安定した生活を送ること、寝不足や過労も禁物です。
この他、バランスのよい食事を摂ることも心がけたいものです。

効果的な食品

ビタミンCを含む食品

皮膚科を受診するほどではないが、シミが気になるという場合には、食品でビタミンCを摂取することが効果的です。
ビタミンCを多量に含む食品にイチゴ、レモン、オレンジ、みかん、柿などの果物のほかに、トマト、大根、キャベツ、じゃがいも、青菜類などの野菜があります。
動物性のものにはレバー、牛乳があります。

ビタミンCの摂取を阻害するもの

ニコチン
喫煙によりニコチンが体内に入ると、せっかく摂取したビタミンCが破壊されてしまいます。
1本でビタミンC約25~100mgを破壊するといわれています。
カフエィン
コーヒー、紅茶、緑茶などに含まれているカフェインの摂り過ぎはメラニンを拡散させるのでシミなどには悪影響を与えます。
パン食
メラニンの原料となるチロジンの含有量は米飯よりパン食の方が多く、米食の方が肌を白くします。