アトピー性皮膚炎の症状

アトピーとは“奇妙な”というギリシャ語に由来する言葉です。
遺伝的素因の強いアレルギー性の過敏症で、喘息・鼻炎・皮膚炎などのかたちであらわれます。
アトピー性皮膚炎は、大人によく見られる接触性皮膚炎とは異なり、子供に多く見られるのが特徴です。
症状は乳児・小児期と思春期以降の成人期とはまったく異なる状態を示します。

乳児期・小児期

顔色はあまり良くなく、肌が乾燥しています。
皮膚をこするとフケ状に浮き上がったり、剥がれ落ちたりします。
皮脂膜の量が極端に少なく、角質層の水分やセラミドも少ないため、皮膚表面の細菌繁殖を抑える力もあまりありません。
非常に外部の刺激に対して過敏な状態の肌です。

乳幼児顔面部急性湿疹(生後2~3ヶ月)

この頃、頭に白いかさぶたができ、口の周りや頬に赤い斑が部分的に現れます。
かゆみがあるためひっかいたりすると、ただれて顔全体に広がります。

小児乾燥型湿疹(3~4歳)

小児になると症状が慢性化して、胸やわき腹に鳥肌のようなザラザラしたものができます。
これが小児乾燥型湿疹です。
特にひじの内側やひざの裏などの関節部がただれて、次第に皮膚が厚くなってきます。
これを小児慢性苔癬化湿疹と言います。

こういった症状は乳児期だけでおさまるか、あるいは小児期までに治癒することが多かったのですが、近年は生活全般の変化から、思春期以降になっても治癒せずに継続することも多くなりました。

思春期以降

思春期以降になると、顔から首のまわり、胸から背中、そして四肢と広範囲に、乾いた慢性湿疹のような症状を見せます。
下肢は虫に刺された痕のように固いしこりをもった、いぼ状の『痒疹(ようしん)』となることもあります。
時には、体全体が赤味を帯び、皮膚の表面がフケのようにはがれる状態の『紅皮症』になります。

アトピー体質の子供には、アトピー性皮膚炎、気管支喘息、アレルギー性鼻炎が時期を変えて次々と起こってくることがあります。 前・同愛記念病院副院長の馬場 実 氏は「アレルギーのマーチ」という仮説を立てられました。

アレルギーマーチ典型的な例

生後間もない頃にまず湿疹が現れ、アトピー性皮膚炎となり、下痢や腹痛など食物アレルギーの症状も見られます。
生後6ヶ月以降になると、息を吸うときゼーゼーいい出し、やがて気管支喘息が発症します。
その大半は成人になるまでに自然と治っていきますが、一部は成人まで持ち越します。
そして、思春期になる頃からアレルギー鼻炎の症状も出てきます。

アトピー素因

IgE抗体を作りやすい体質

遺伝的にIgE抗体が関係するⅠ型アレルギー(即時型)を発症しやすい体質をいいます。
正常な成人のIgE抗体の血中濃度は、血液1ミリリットル中150国際単位(約2.3ナノグラム=ナノグラムは10の9乗分の1グラム)とごくごく微量ですが、アトピー素因をもっている人はこれが増えます。
そのため、体中にある肥満細胞の膜上にIgE抗体がくっつき、再び抗原(アレルゲン)が体内に入ると、肥満細胞に結合しているIgE抗体に抗原がくっつき、その刺激で肥満細胞が壊れ、中からヒスタミンなどのかゆみや炎症を引き起こす物質が出てきます。

抗原
アレルギーを引き起こす蛋白物質。金属アレルギーなどでは金属に蛋白が結合して抗原となります。
アレルゲンと同義。
抗体
抗原と1対1で結合する血液中の蛋白物質。
免疫グロブリン(Ig=immunoglobulin)ともいいます。
通常、抗体はウイルス、細菌などの体にとって害となる異物がもっている抗原にくっついてやっつける働きがあります。
予防接種などはこの働きを利用しているわけです。
ところが、正常範囲を超えて過剰生産されるとアレルギーが発生します。
また、外部の異物ではなく、自分で本来もっている成分を抗原として認識してしまい、抗体をつくるものを『自己免疫疾患』と呼んでいます。
抗体の種類
抗体(免疫グロブリン)には、IgG、IgA、IgM、IgE、IgDの5種類があります。
アレルギーに関係するIgEは、正常では免疫グロブリン中の0.002%を占めるに過ぎません。
このうち、IgE抗体はⅠ型アレルギーを発生させる抗体とも呼ばれます。

アトピー体質の背景に遺伝

アトピー性皮膚炎を引き起こす人は、IgE抗体を作りやすい体質であるといえます。
その背景には遺伝的なものがあります。
両親や兄弟姉妹などに気管支喘息、アレルギー性鼻炎、アトピー性皮膚炎などの人がいるとアトピー性皮膚炎になりやすい因子を持っているといえます。
両親のどちらかがアトピー体質であった場合約60%、両親ともアトピー体質であった場合は、おおよそ80%の確立でアトピー体質になるといわれています。

かゆみの誘発要因

  1. 涙、汗、つば、尿など自分の体液が皮膚を刺激したとき
  2. ダニ、細菌、砂、野菜、煮汁、衣類などの皮膚への刺激
  3. 睡眠中、寝床についた直後や目覚めかけの眠りの浅いとき
  4. 学校や仕事が終わって緊張が緩んだとき
  5. 子供では親に叱られたり、泣いたりして体が温まったとき
  6. お風呂や暖房のよく効いた部屋にいて体が温まったとき
  7. アルコールや香辛料の摂り過ぎ

以上を見てみると、普通の人が何でもないことがかゆみのきっかけとなっています。
アトピー性皮膚炎を引き起こす人はIgE抗体を作りやすい体質です。
IgE抗体はヒスタミンというかゆみ物質を蓄えている肥満細胞の膜上にいっぱいくっつけています。
そのため、肥満細胞が壊れやすくなっています。
つまり、ちょっとの刺激でも肥満細胞が壊れてヒスタミンがばらまかれるのでかゆみの準備ができている状態といえます。

効果的治療のために

アトピー性皮膚炎の治療は医師によって様々な見解があり、また、発症原因が複合していることも多々あるため、具体的な治療方法は確立されていません。
そのため、民間療法が氾濫したときもあり、2001年に厚生労働省厚生科学研究班「アトピー性皮膚炎ガイドライン2001」がまとまり、正しい情報が伝えられるようになりました。

治療をバックアップするスキンケア

ガイドラインでは治療と同じくらいに以下の3点が重要であることが示されています。

  1. 原因・悪化要因を見つけて除去する
  2. スキンケア
  3. 炎症やかゆみを抑える薬物療法

スキンケアは効果的な治療を行う上で重要視されています。
スキンケアの基本は肌を清潔に健やかに保つことです。
きちんと正しい洗い方をしていますか?
乳幼児では石けんを使わない方がよいとか、洗わない方が良いなど誤ったスキンケアをしていませんか?
スキンケアは皮膚疾患を持つ持たない限らず、皆が必要なことです。
決して特殊なことでもありませんから、ぜひ、正しい洗い方や正しい保湿用品の使い方など、正しいスキンケアを身につけてください。

アトピー性皮膚炎の予防

アトピー素因をもちながらも小児期には発症せずに思春期以降に発症することがあります。
この場合は肌を乾燥させる環境にいることが多く、顔をスクラブ洗顔料やフェイスブラシでゴシゴシ洗いすぎて、もともと不足しがちな皮脂膜を取りさってしまい突然発症することもあります。
乾燥とともに見過ごせないのは汗です。
皮膚表面に汗が分泌すると、皮膚自体の抵抗力が低下します。
ひじやひざの裏側、わきの下、太ももの付け根などにアトピーが見られるのは汗が溜まりやすい部位だからです。
汗をかいたら素早く洗い流すことが大切です。

  1. お風呂やシャワーなど皮膚に直接触れる水は塩素(カルキ)を中和するか取り除いて使用する。
  2. 皮膚は清潔に保つ。洗浄剤をよく泡立てその泡で、やさしく掌で撫で洗いする。洗浄成分が残らないよう十分にすすぐ。
  3. しっかり保湿して肌を乾燥させないようにする。皮膚の通水性や通気性を妨げないように油分での保湿は避ける。
  4. 爪は短く切って、皮膚を傷つけないように。
  5. お風呂のお湯はぬるめに。
  6. 衣類は木綿製を着て、汗をかいたらこまめに着替える。
  7. 部屋はホコリがたまらないよう掃除する。
  8. 紫外線に長時間あたらない。
  9. 規則正しい生活、和食の食事、睡眠を十分にとることを心がける。
  10. ストレスを溜めない。

アトピーのスキンケア

スキンケア用品の選択

商品の説明や使用方法をよく聞き、自分の肌の状態も十分話し、まずはサンプルで試してみることが大切です。

スキンケア用品:洗顔料

洗顔料は弱酸性の肌にやさしいものを選び、細かい泡をつくり、その泡で洗顔します。
決してゴシゴシこすらないようにします。
その後、額の生え際から、顎のラインへ流れるように十分すすぎます。
よく、バシャバシャとすすぐ人がいますが、洗顔料が髪の生え際などに流れ、残留して皮膚を傷める原因となりますから、注意しましょう。

スキンケア用品:保水・保湿

まず保水してから保湿することが大切です。
アトピーの肌の場合、何層にも重なっている角質細胞は乾燥して扁平で、隙間が広くあいた状態です。
そのため水分が蒸散しやすく、逆に刺激が表皮深層に入りやすいのです。
そのため、まずは保水し、角質細胞をふっくらさせて弾力をもたせます。
隙間も埋まりますから、刺激が入りにくくなります。
そして、その状態を長くキープできるように、ジェルやクリームなどで保湿します。

肌を休める

湿疹や炎症を起こしている時にそれをカバーするためにファンデーションをつけると症状は悪化してしまいます。
さらに、そのメイクを落とすときに、また悪化させてしまいます。
メイクは口紅とポイントくらいにし、それも早めに落としましょう。
また、休日などはメイクをせず、肌を休めることも大切です。

入浴

皮膚を清潔にしておくためにも毎日の入浴はおすすめです。
38度以下のお湯の場合、副交感神経に働きかけて心と体を落ち着かせてくれます。
また、不必要な角質細胞がお湯でふやけて自然に剥がれ落ちますし、皮膚の基底細胞に栄養や酸素を運ぶ真皮層の毛細血管の血行促進にも成り、皮膚の新陳代謝が活発になります。
入浴の際は、皮膚への刺激となる水道水のカルキを中和するか除去してください。
また、体を洗うときはナイロンタオルやブラシを使わずに、泡立てた泡で手のひらで撫で洗いがおすすめです。

健康な皮膚
ウイルス・アレルゲン・カビ・紫外線などの侵入を防ぎ、水分蒸散を防いでいる角質層
アトピー性皮膚炎の皮膚
ウイルス・アレルゲン・カビ・紫外線などが侵入しやすく水分蒸散が激しい角質層